のあるくらし
 
薪ストーブの特徴
  薪を割り、くべ、燃え具合を見ながら焚く。灰をとって煙突を掃除する。薪ストーブには人の肌にあった暖か さと心をときほぐす温もりがあります。でも石油や電気になれ、簡単・便利・合理性を追い求めつづけてきた現代のくらしにくらべて薪ストーブはわずわしいものです。
  焚き火をする光景もみられなくなり、木を切り、火を燃やすという生活技能すら失いかけている現代人にとって薪ストーブは魅力のある物になってきました。でもちょっと気になっているのは、輸入ストーブのカタログなどをみると、インテリアやおしゃれな家具のようにあつかわれていることです。野暮ですね。 日常のくらしのなかでごく普通に炎をくらしに活かし、火を使いこなすことこそ薪ストーブの良さであり醍醐味でしょう。

 
ロー テクノロジー 
 薪ストーブの一番の特長は その魅力と同じロー テクノロジーであること。

 温くぬくとした 人の肌にあった暖かさの秘密は 輻射熱
 薪ストーブの暖かさを経験した人はその暖かさだけでなく 柔らかな人 心地よい温もりを知っています。石油や石炭、電気、ガスのストーブとは違う温もりの秘密は輻射熱にあります。
 輻射熱は光のように人に届きます。他のストーブはガスや石油を燃やした排気熱を部屋に放出して空気を暖めますが、薪ストーブは薪の燃焼で暖められた鉄と炉のなかのオキから放射される輻射熱で直接人の身体や部屋を温めます。極端に言えば部屋の空気は冷えていても光のように当たる輻射熱で人は暖められ温かく感じるのです。薄い鉄ではなく厚い鋼板からでる輻射熱は豊富なだけでなく柔らかく優しく強いのです。
もちろん部屋の空気も輻射熱やストーブ・煙突の熱によって暖められます。

 薪ストーブは換気装置
 しかも 薪ストーブは他のストーブと異なり部屋に温かさだけを残して燃焼した排気を煙突から屋外にだします。 部屋の空気を使って燃焼し、使った空気は煙として煙突から排気しますから ほどよく部屋の換気が行われています。
 私が薪ストーブで好きなことは、音がしないこと
 薪ストーブは、静かです。炎のゆらぎのなかから時おり薪のはぜる音がかすかに聞こえるだけです。モーターもなければファンもない、電気のうなりや石油のポコッという音すらありません。機械的な音になれた現代人にとっては不安になる静寂ですが、つつみこむような温もりがやすらぎをあたえてくれます。

 
臭いもありません
 桜など木の香よい薪をそばにおけば乾燥するかすかな香りを楽しむこともできます。
 でも、部屋の中はいいのですが煙突からでる煙には時として匂いがあります。「煙がでない」とか「完全燃焼だから大丈夫」といった過剰宣伝をしている業者もいるようですが、特に着火しばらくや薪の状態(水分が多い)、焚き方、そして樹種によっては煙が見え、匂いがでます。なぜなら匂いの粒子が燃えるには1300℃位の温度で常時燃焼する必要がありますが、薪ストーブではできない環境です。また「煙」も白い煙はほとんどが水蒸気=水ですから燃えることはありえないからです。
 もちろんサクラのチップが燻製スモークによく使われるように、リンゴの木の薪の煙はリンゴの、ミカンならミカンの香りがします。松などは「松脂の燃える匂い」と刺激臭に例えられるように臭います。 
 困ったことに、香水と同じで、ある人には「香り」であっても別の人には「嫌な臭い」と感じられるように個人差があります。ストーブや煙突の構造である程度は解消しても根本的にはこれは使う人のモラル 近隣への配慮の心で解決するしかありません。

 
安全な燃料 薪
 薪は、太古以来人類が最初から使ってきた燃料です。石油やガスに比べて発火しにくく、燃焼速度も遅く爆発の危険もなく安定している。排煙量もきわめて少なく、窒素酸化物や硫黄酸化物も含まれず灰分も少ない。薪を燃やして煙突から屋外に排煙するから室内の空気も汚さず,換気の役割も果たしています。引火性の燃料の流出や爆発も急激な炎上の危険もほとんどない。火は頑丈な鉄の箱のなかで燃えていて、石油ストーブなどに比べてもはるかに安全です。
 しかし、残念ながら、昨今では焚き火すらみかけなくなり、このもっとも手近で安全な炎をあつかう経験の場が失われ、火をあつかう生活技能が衰えてしまっています。そのために薪ストーブへの憧憬には無知と不安が入り交じっています。くわしくは別のページで触れますが、薪ストーブは設置と煙突、そしてその手入れさえ確実におこなえばきわめて安全な暖房用具です。
 もちろん 化石燃料や原子力と違って環境への負荷が少ない循環系の燃料です。でも昨今一部の業者がいうように「ナラ・クヌギでなければダメ」というのでは里山や身近な森林、木材資源を活かしつつ復活させていくことにはなりません。「ナラ、クヌギでなければ」というのは鋳物のストーブの場合割れたり焼ききれたりすることがあるための「予防線」であったり、薪を販売する利益のためでしょうか。いずれにしろ 必要以上に『良い薪』にこだわり堅木以外は薪ではないというようなおかしな話が蔓延すれば、『自然を大切に』どころか、お金儲けや自分の満足のために逆に自然を荒らしたり 果ては悪徳業者が「薪の輸入」をはじめて世界中の顰蹙をかうことにもなりかねませ
ん。

 
つくられたダイオキシン騒動
 1999年「埼玉県の野菜から高濃度のダイオキシン」などマスコミはセンセーショナルにダイオキシンについて報道し不安をあおりました。しかし、最高裁でテレビ朝日の敗訴が確定し、こんにちではダイオキシンにはほとんど毒性がないことが知られるようになりました。実際、「あの騒ぎはなんだったのだろう?」と思うほどマスコミはダイオキシンについて語りません。
 もともとダイオキシン猛毒説そのものが『つくられたもの』であり、焼却によるよりもっと高濃度のダイオキシンが以前から農薬により田畑に存在していたし、そもそもダイオキシンそのものが「人類史上、もっとも強い毒性を持つ化合物」ではなくもともと自然界に普通に存在して人間に対する毒性がないものだったのです。囲炉裏を思い浮かべても分かるように太古から人類は薪の煙も吸い、ダイオキシンのある大地や水から得た食料を食べてきました。もちろん各種の調査でも薪の燃焼で発生するダイオキシン類はゼロに近いほどの極微量です。
 薪ストーブに限らず 動植物など有機物と塩素などと 300-500℃くらいの温度の3条件が揃えばダイオキシンができます。竪穴式住居に住んできた祖先たちも焼き鳥屋さんも毎日この条件に曝されていることになります。もちろん石油製品など化石燃料に比べて薪から出るダイオキシン類は少ないですが。
詳しく知りたい方は
 
     「環境問題はなぜウソがまかり通るのか」武田邦彦(文部省科学技術審議会専門委員他)著 洋泉社刊

 ただし、薪ストーブを使いたいあなたは理解しても ご近所の方が納得してくれるとは限りません。 自分は暖かく、ご近所には平然と煙やにおいを吐き出すのでは嫌われます。説得するより謙虚に使うことが大切です。 
 焚き方と薪で大きく変わる暖かさ 能力は使い手次第
 薪ストーブは一日中燃やしてゆったりと暖めるのは得意です。逆に春先や梅雨時、晩秋などに短時間ちょっと暖めるの苦手です。大きなストーブは薪が入るスペースが広いのでもちろん高出力。でも大きすぎるとちょっと燃やしたい時に不便で非効率です。ちょうど良い大きさのストーブにきっちりと薪を詰めて焚くとオキ火が多くできてゆったりと暖かく効率的です。
 大切なのは乾燥、薪を使い分けるのも知恵

でも薪は不安定な燃料
 薪についての詳しくは別項にしますが、木材の1Kgあたりの発熱量は、ナラなどの広葉樹平均4730キロカロリー、松などの針葉樹平均4960キロカロリーとほぼ同じです。(数値は実験装置による「測定値」なので実際はもっと低い3500キロカロリー前後)
 普通は針葉樹のほうが柔らかく乾燥も早く比重も軽いため見た目の焚く量(嵩)が増え火持ちも悪く感じますが、薪の使用量は嵩(かさ)ではなく 乾燥時の重量であることを知っておく必要があります。また、薪からでる熱量の半分くらいが炎を上げて燃える分解燃焼、残りの半分が炭火のように燃えるオキ燃焼ですが、オキ燃焼のほうがはるかに長く燃えますから火持ちがよく効率的になります。
 「薪の乾燥」とは雨や水に濡れたのを乾かすのではなく 木の細胞内の水分が外にでる状態ですから月日がかかります。少なくても割った薪を一年以上、できれば2夏を雨の当たらない風通しの良い場所に置いたものとなります。それでも薪には通常重量比20%以上の含水が残ります。水ですから燃えません。焚くと薪やストーブの水蒸気となって白い煙となりしかも気化熱としてストーブ内の大量の熱を奪います。なおかつ木ガスとむすびついてタールとなって煙突を詰まらせます。
 ですから未乾燥の薪を燃やすのは 燃え難いだけでなく暖かくなく煙突を詰まらせ 時として危険な煙道火災の原因にもなります。
 なお、薪について定められているのは束ねている針金の輪の直径だけで 樹種も乾燥度も重さも決まっていません。よく薪ストーブの『能力』として表示されている「出力○○カロリー」は使う薪自体がこのようにあいまいでありその算出計算式も国際的にも統一されていないのになぜか数字がでてくるものです。「暖かくないのは あなたの薪が悪いから」ですまされてしまうのはそのためです。

 消せない暖房
 
夕暮れのなか 炎のゆらぎを見ているとき だれもが寡黙になります。遠い昔の祖先たちがくらしのなかでたやさず守ってきた炎の記憶がよみがえっているかのように。
 薪ストーブにはスイッチがありません。ともした炎は薪が燃え尽きるまで燃えています。消すこともできず 強さも自分の経験と勘で調整し 燃料も自分で用意し乾燥させる。灰をとり煙突を掃除する。科学的合理主義と経済功利主義のなかでこんな面倒で不便な暖房器具はありません。マニアルと計器やスイッチになれた人にはお薦めできません。しかし、火を燃やすといった根源的な生活の技能のおとろえをとりもどすことに心のやすらぎとかけがえのない温もりをあたえてくれる生活用具であるかもしれません。