薪ストーブ造りを20年
「薪ストーブは生活用具」とそれまでだれもいなかった「オーダーメイドの薪ストーブ」を造り始めて20年が経ちました。製作台数も500台を超えました。そのほかに技術専門校の講師として4年余り 400台以上のストーブ製作実習に携わり後継者を養成してきました。そのほかにも 薪ストーブを造りたいと訪ねてくる人たちに教えたりしてきました。いまではそうした幾人かの人たちが各地で薪ストーブをつくるようになりました。

 くらしにあわせて薪ストーブを造る
薪ストーブは生活用具です。 薪として木を生かし、鉄を活かし、自然と人の技能が折り合いながら人のくらしを暖め 自然を育みます。薪ストーブは設置する条件、入手できる薪や使う目的にあわせて造ったほうがよいと考えています。それは生活用具は使い手と作り手の生活技能、労働技能の交流によって ごく日常のくらしのなかで活かされ使い込まれていくものだからです。
 さまざまな使い手のくらしや設置条件にあった薪ストーブ。そのために使い手と打ち合わせをして一台づつ設計し製作する完全なオーダーメイドです。わたしが造るストーブの最良の焚き手はあなたです。


  厚い鋼板で自由に造る
 私は板厚6mmから12mm 時には36mmを越える鋼板を加工して薪ストーブを造っています。重量は90kgから150Kgを越える物が普通で 200−300Kgの物も珍しくありません。最高は約1トンでした。
  厚い鋼板を使って造るのは、鍛金や溶接、切断、曲げ加工をすることでいろいろなデザインや機能をもったストーブを自由に造ることができ、しかも厚い鋼板であることで蓄熱が多く柔らかな暖かさをだすストーブを造ることが出来るからです。 
 これなら大掛かりな工場設備がいらず ささやかな機械類と道具、材料費と技能を使って自分の手間賃だけで製作することが出来ます。大量に作って大量に販売する必要もありませんから手間をかけた一品生産に向いています。
 したがって注文を受けてその人の住宅や希望に合ったものを自分の手で造って直接お渡しする 手ごたえのあるものづくりができます。
 鋳物のように大掛かりな工場設備が必要な方法をすればひとつの形のものを大量に作り、それを販売や輸出するために問屋(輸入代理店)−小売店-建設業者 など中間経費を上乗せして原産国の価格の3倍近い『定価』で売る必要もありません。
 理論値としては鋼板に比べて鋳物のほうが重量あたりの蓄熱率がわずかに高いですが鋳物ストーブの厚みは4ミリ程度しかありませんから実際のストーブになった場合は厚い鋼板を使った物のほうがはるかに蓄熱効率も良くなります。鋳物は大量生産には向いている長所がありますが 粘りがないので衝撃や熱の伸縮に弱く 濡れた鍋を直接のせたり、針葉樹など高温の薪で強く焚くと割れたり焼き切れたりして壊れたりする短所があります。厚い鋼板ならそうした心配がありません。私は「ならし運転は不要です。最初から強く焚いてください」と言っています。
 造るのは大変でも十二分な蓄熱と柔らかな暖かさ そして堅牢で薪を選びません。

 くらしと労働の技能を復権
 わたしは、あれこれの科学機材に頼らないようにしています。 技能、ストーブの歴史のなかで培われた試し済みの技術と自分自身と使った人の経験を基にして、単純な仕組みで機能をはたし、使いやすい構造で堅牢なものを造るようにしてきました。
 薪ストーブは炎と熱、不完全な燃料である薪の水分や灰、錆びなど過酷な条件で使われます。理屈で考えそれらしい小細工をして作ってもいずれ壊れたり故障すると考えています。
 消耗部品や専用品のないメンテナンスフリーで造っています。すぐに減ったり定期的に交換やメンテナンスをしなければならないものでは 使う人が困ります。最近は『ストーブの定期点検』と称してメンテナンスを商売にしたい人もいるようですが、たしかに一般に鋳物のストーブはもともとそんなに長い耐用年数を設定してありませんし 部品も壊れるようです。でもそれでは生活用品として使い続けることができません。
 パッキングや交換部品の必要ない造り方をし、煙突部材も独自に開発し、設置などでもコーキングなど耐用年数のない方法はとりません。

  無理難題に応え 多様なデザインと構造、設置
  製作例にもあるように、フローリングの床に直接設置したり、壁や柱に取り付けたり 宙に浮かせたりとこれまでにない薪ストーブの設置を実現してきました。 
 両面ガラス、コーナーガラスなどさまざまな意匠だけでなく、構造や仕組みとして対流式構造、暖炉型、外気導入、給湯組み込みなど多様な機能のものを造ってきました。煙突にもさまざまな開発と工夫を加えて改良をしてきました。
  こうしたものは、建築家やいろいろな注文者からの「こうしたことをしたい。」「これを解決できないだろうか。」というご希望を受けて、それまでの経験と知識とストーブや熱、鉄を原理から考え直し、見直し、実験や試作を積み重ねて開発してきた結果の累積です。 これにはこれまでの私の建築や他産業での経験が役立っています。
  一件 一台ごとに建築家や依頼主と詳細な打ち合わせと検討を重ね、ストーブだけでなく建物と周囲の処理についても工夫をこらして 無理難題の課題を解決する共同作業です。
 私のストーブ造りは、経験と挑戦ですが 建築家、さまざまな職業、知識を持つ注文者とのコラボレーションです。完成したストーブは使い手により確かめられ 製作した技術と知識の経験は私の技能を豊かにしてくれます。 だからストーブ造りは面白いのです

くらしにあわせて薪ストーブを造る